シンプルライフへの遠い道

心穏やかな暮らしを目指して奮闘中

人は、人を浴びて人になる 夏苅郁子著

副題:心の病にかかった精神科医の人生をつないでくれた12の出会い

夏苅郁子さんの半生記。「心病む母が遺してくれたもの」と重なる内容ですが、エピソードなどは微妙に違っていて、両方読んで、一層どういう日々を過ごしてこられたのかが分かりました。

 

書名・副題の通り、人との出会いを通じて、少しずつ変化・回復していった経過が語られています。

 

印象に残ったのは、2回目の自殺未遂の後、休職していたころの話。

何もせずに日々を過ごすうちに、徐々に「ほんの少し、死ぬのを先延ばしにしてみよう」と思えるようになり、薬もちゃんと飲み、食事や睡眠もとるようになっていった。体調のいい日に、「あそこまで歩いてみよう」と近所の店を目指して歩いて…徐々に距離を伸ばして…と、自分でこうしようと決めて、達成する喜びを感じつつ過ごせるようになっていった。回復には時間が必要だということにも、ようやく気付けたのだそうです。

 

頭ではわかっていても、変化ないな~とか、焦りも出てくるので、1日1日生き延びる体験を重ねることで得られる強さもあることを体験談として聞くと、励まされます。

 

もう一つは、著者が、本当に「生きるって素晴らしい」と思えるようになったのは、50代半ば以降だったという話。統合失調症の母親を持つ、「我が家の母はビョーキです」の作者中村ユキさんとの出会いは55歳の時。そのあと、自分の母親の病気のことを公表して、講演などにも呼ばれるようになり、自分の目指す方向も一層はっきりしてエネルギッシュになっていったそうです。

 

よく年齢であきらめちゃいけないと言いますが、回復もそうなんですね。

一生無理かな…と思うときもありますが、まぁ、死ぬときに、「もう大丈夫になった」と思えていたらいいのかも。