シンプルライフへの遠い道

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トラウマと記憶 ピーター・A・ラヴィーン著

副題:脳・身体に刻まれた過去からの回復
トラウマ治療法の一つ ソマティック・エクスペリエンシング(SETM)の解説書
SETMとは…他の人が寄せている序文に一言にまとめられていました。

「一歩下がり、自分の内面をよく見つめ、感覚と感情の激しさを抑え、生来の身体的な防衛反応を賦活することができるようになって初めて、不適応に凝り固まった無意識の生き残り反応を修正することができるのであり、その時こそ、呪いのようにつきまとう記憶を、穏やかに休ませることができる」

「過去のこと」になっていないトラウマを無理に思い出すと、その時の苦しい感覚・感情も激しく蘇って、本人も辛いし、悪影響もある。SETMでは、体の感覚に意識を向けつつ、未処理・未完の行動(加害者を押しのけるとか、その時やりたくてもできなかったことなど)を完了させて、”過去のこと”にして、その人本来の力も取り戻していくようです。

SETMができる信頼できるセラピストがいるなら、受けてみたいと思いました。
一人では難しいでしょうが、「今・ここ」の感覚・感情を知覚することに意識を向けたり、「あの時は嫌な気持ちになった」で止まらず、「どういう感じがしたか-体を拘束される感じがしたとか、胸の奥がきゅっと縮む感じがしたとか」「どうしたかったのか-言い返したかったのか、殴りたかったのか、逃げたかったのか」などを自覚する方向で観察することは、気持ちの整理の役に立ちそうです。
他人が苦手なので、自分の感情の渦に飲み込まれないように、人といる時は、一歩下がって観察しながら「ここにいる」ようにしていますが、SETMは、プロの手を借りながら、トラウマに対してこれをやるのかな~とイメージが掴めている気はします(それが正しいのかは分かりませんけど)。

以前受けた傾聴講座の講師(カウンセラー)も、人の話を聞くときに、一歩下がって、自分の心の動きも観察しながら、自分のこころはそれとしてそこに置いたまま、相手の話を聞くスキルが必要と言っていましたが、「少し距離を取って、より広範囲を観察する」のは、メンタルヘルスのカギなのかもしれません。
マインドフルネスも、この練習と言えなくもないですし。


他に印象に残ったのは…
・記憶は思い出す度に更新されている(ずっと固定した”事実”ではない)
  ・・・これは他の本でも読んで、自分の感覚で考えてもそうだな、と思っていました。

・記憶の世代間連鎖
  ・・・眉唾物だとする人も多いでしょうが、私はあるだろうと思いました。
  ホロコーストサバイバーの子供が、肉の焦げる臭いに激しく反応する…などの事例が 
  挙げられていました。現在は、「科学的根拠のある話」ではないそうですが、
  個人的には、今の日本人の抱える心理的問題…特に家族内の虐待・抑圧などは、
  太平洋戦争の後遺症も混ざっているのでは?と思っています。
  あの時代の抑圧や理不尽、大事な人たちの喪失を「嫌だ」といい、おおっぴらに悲しむことも
  許されなかった世の空気に歪められたもの、歪める圧力への未処理の怒りなどが変容して、
  今の世に蔓延する”不必要な生きづらさ…不当な不寛容など”を生むベースになっている気が
  しています。何の根拠もありませんけど。



日本でもいろいろな心理療法が行われているようですが、更にプロが増えて、選択肢が広がるといいな、と思います。
私のような素人にも分かりやすい本でした。