シンプルライフへの遠い道

心穏やかな暮らしを目指して奮闘中

死にたい老人  木谷恭介著

「83歳になったら、断食安楽死をする」ときめた男性作家が、実行したものの、最終的には、おそらく無意識に渦巻く生きたい気持ちの反乱(体にいろいろな症状が出て耐えられなくなった)に負けて、断念する話。

読んでいて、自分勝手で、本当はかまって欲しい爺さんだな、と思いました。
本当に、飢えて、上手く枯れて死ぬつもりなら、誰にも言わず密かに実行し、遺書(誰かに虐待されて食料が手に入らなくなったからではなく、これは自分の意志で決行したことだと書いておく)を残しておけばいいし、
そもそも、飢え死にするつもりなのに、どうして家の中に食料残した状態で始めるのか分からない。

周囲の人が、自分が断食死しようとしていることを知っていたのに放置したとして罪に問われたら困る・・・と、わざわざ弁護士に相談したりしているけれど、何だかな~です。

胃潰瘍から腹膜炎になって、地獄の苦しみを味わい尽くして死にたくない!と思うのは共感できますが、持病の心臓が悪くなって死ぬ分にはいいんじゃないの? なのにどうして断食中も薬を飲むの? と不思議だったり、
胃が荒れる可能性の高い薬を断食中も飲み続けるとか・・・つっこみどころ、満載でした。



ですが、本人は大真面目に数年考えての決行で、実際に一か月以上断食したわけで、話題作りにやったとも思えません。
それだけ人間心理は理路整然とはいかず、矛盾だらけだし、表の気持ちは「これだけ衰えて生きながらえたくない」だったとしても、「生きたい」気持ちは生物としてしっかりあるんだな、とも思いました。


ご本人は、75歳ごろから自分を老人と思うようになったそうです。
薬学的にも75歳は一つの区切りらしいのです。薬を処理する能力が、それより若い人よりは明らかに違ってくるそうで。
今の日本で上手に年を取って、老いを受け入れ、穏やかに旅立って行くのは、難事業なんだな…と感じた一冊でした。
自分が年を取った時、どうなっているのか…多少の覚悟もないと老いを受け入れられないだろうな、とも思いますが、考えたくない気もします。