シンプルライフへの遠い道

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病院のやめどき 和田秀樹著

副題:「医療の自己決定」で快適生活

私自身、PPIを止めて便秘が治ってQOLが上がったし、かかりつけ医師の診断に納得できず専門医に診てもらったら喘息と分かりスッキリした経験があるので、”医療の自己決定”に興味が湧いて読みました。
PPIを止めたせいで、将来胃癌や食道がんになるかもしれないから、そこも「自己決定」なんですけど。


この本の趣旨の多くは賛同できるものでした。
・今の日本医療の標準的な治療(診断基準の数値など)を決める根拠になっている”科学的知見”の多くが、日本人データでないので、信頼できるか疑問。

・診断基準はコロコロ変わる=絶対の基準ではない

・医師の中には、検査結果だけを見て、患者のQOLや希望を加味せず漫然と処方をつづけている人もいるので、自分の体の感覚なども大事にして決める必要がある。

・「この治療を受けると○○のリスクが半分になります」の意味が、「同じ状態の人20人中4人が10年以内に〇〇になるのが、二人に減る」という意味の時、「その差二人に自分がなるかもしれない可能性」と、その治療を受ける自分の手間暇お金や副作用リスクなどをどう評価するか自分でしっかり考えましょう。

などなど



が!論の進め方は突っ込みどころ満載でした。
ご本人のこだわる「科学的根拠」があるようでない話がてんこ盛りです。

都道府県ごとの人口当たり老年病専門医育成のための認定施設数と平均寿命に正の相関がないから、現代日本医療は成果を出せていない、という主張。
認定施設が多い東京でも33万人当たり一つだそうです。高齢化率20%として、6.6万人の高齢者当たり一つしかない施設に、寿命を延ばす成果を出せと言われても…と思います。
この認定施設が出来て何年かも分かりません。
寿命を延ばすには十年単位の取り組みが必要なのでは?と思いました。

喫煙について、「65歳を過ぎて禁煙してもあまり意味がない」と言う根拠も、私には根拠じゃないように見えました。
浴風会病院で施設入所者(65~69歳)824人の喫煙者かどうかと生存率の違いのグラフ。
データとしては、「差はない」はそうなのでしょうが、施設入所者と、同じ年齢層の日本人全体の健康状態が大体同じ、とは言えないのでは?
施設に入る人はそれなりに健康状態が悪いから、他の理由で亡くなるので、差が出ないのかもしれないし、喫煙が影響する病気の重症患者さんを受け入れていなければ、喫煙の影響がデータに出なくて当然だし。
そもそも、「生活の質」にこだわっている著者が、「喫煙と”寿命”」で話を進めるのもいかがなものか…。
喘息やCOPDなどの呼吸器疾患で生活の質が下がっている高齢者について、喫煙か非喫煙かを調べたら、喫煙者の方がリスクが高いのは明らかです。呼吸器疾患があると、その病気で辛いだけでなく、リスクが高いから手術や検査が受けられないとか、そういう事態も発生します。

持論を補強する理論をあちこちから拾ってきているのが目について、せっかくいい主張もあるのに、「何だか信頼できないな~」な本でした。



この本を読んで、基礎知識のない一般の人には、「医療の自己決定」はかなり難しいだろう、と思いました。